多様性の獲得

ダイバーシティの日本語訳の多様性は人種、国籍、宗教、障害、性別、性的嗜好、年齢など異なる特徴や性質を持つ人がともに存在する状態のことのようである。

ことのようであるという言い回しにしているのはこの多様性の大まかな意味は理解しやすいが、性的マイノリティの権利や働き方の選択など様々な文脈で使用され、バズワードになっているからである。

今回のテーマーにおいて、マシュー・サイド著「多様性の科学」を引用して以下の2つの多様性で区別して説明を進める。

  • 人口統計学的多様性(人種、性、年齢、性的指向、信仰などの違い)
  • 認知的多様性(ものの見方や考え方の違い)

労働生産性を考えた場合、重要なのは認知的多様性であり2種類の多様性の間には人口統計的多様性が高くても、認知的多様性に影響を及ぼさない場合もある。

 

イノベーションとの認知的多様性との関係

多様性の科学によると、イノベーションは以下の2通りある

  • 漸進的イノベーション
  • 融合のイノベーション

漸進的イノベーションはある程度方向性が決まった中で、段階的にアイデアを深めていくタイプで、融合のイノベーションはそれまで関連のなかった異分野のアイデアを融合する方法である。

2つのイノベーションはずっと共存してきたが、近年融合のイノベーションが圧倒的な主役となっている。

認知的多様性が欠如したクローン化され画一的な集団では創造的なアイデアが生まれにくい環境になり、イノベーションが起こりにくくなる。また、画一的な集団では複雑な問題に対応することが困難となる。もちろん、優秀かつ多様であるという前提はある。

筆者はリモートワークを広範に取り入れることにより、優秀でかつ多様なバックボーンを持った人材を取り入れる可能性が広がると考える。

特に、多様なバックボーンという条件が加わることで、通常の労働市場で優秀とされる範疇からは外れるケースがあるため大企業が採用を見送った人材でも実際には認知的多様性の文脈において十分活躍できる能力があるだろう。

また、多様性獲得によるイノベーションは相対的にリソースの少ない企業が発展するための有効な手段でもある。

 

今回紹介した内容は「多様性の科学」のごく一部で、本書は非常に示唆に富んだ内容で構成されており、今後も別の文脈で紹介したいと考えている。

また、著者のマシュー・サイドは「多様性の科学」のほか「失敗の科学」「才能の科学」という大変興味深く内容の充実した著作がある。